(書籍)サイクリング(日本サイクリング協会著)

僕らサイクリストはレースが自転車趣味のヒエラルキー上位にいると思ってるけど、それってそんな昔からじゃないよね?日本でロードバイクレースがメインカルチャーになったのはいつから?

それを探るべく、我々は横浜市西区にある神奈川県立図書館へ飛んだ

 

借りた本

フォントがレトロ

書名 サイクリング
著者 日本サイクリング協会
発行 朝日新聞社
発行年 昭和33年(1958年)415
定価 280

今から66年前、終戦から13年後の刊行です。書名の通りサイクリングに関する書籍。神奈川県立図書の蔵書で、サイクリングに関連するものとしては最古ではないかと思う

 

執筆者紹介(五十音順)

奥付に執筆者が載っていた

“サイクリング”の著者

興津 武雄 日本サイクリング協会 理事
賀来 信一 日本サイクリング 用具委員
北野 友三郎 大阪サイクリング協会 理事
菅沼 達太郎 神奈川県サイクリング協会 会長
杉本 正年 日本サイクリング協会 理事
曾雌 定理 日本サイクリング 指導委員
高田 精作 日本サイクリング 理事
荻原 慎一 日本サイクリスツ・ツーリング・クラブ
藤本 進 医学博士 国立予防衛生研究所
藤田 実 日本サイクリング協会 理事
前田 安雄 日本サイクリング 専務理事
山田 鉑雄 東京サイクリング協会 理事

日本サイクリング協会(JCA)が主体となって編まれていることが分かる

ちなみにこのJCAは現役の組織。趣味のコミュニティが70年ちかく続いてるのすごすぎない?

JCA

 

本書が定義するサイクリング

序盤でサイクリングの定義が行われている

サイクリングは一口でいえば自転車を利用して行うスポーツである。(中略)老若男女たれでも、いつでも、どこでも楽しめるスポーツである。

シンプルで分かりやすい

サイクリングの種類という項目で、当時行われていたサイクリングがどのようなものか紹介されている

  1. ポタリング
  2. クラブ・ラン
  3. ツアー
  4. ファースト・ラン
  5. タイム・トライアル
  6. ナイト・ラン

ポタリングという言葉が既にあったとはびっくり。発行された1958年はまだ自転車の鉄道持ち込み(輪行)は許可されていない。ということは自宅起点に行うライドがメインだったはず。載っている写真もグループライドっぽいものが多く、友人やクラブチームのメンバーと一緒にやってたのかな?

クラブ・ラン

ツアー

輪行 - Wikipedia

服装の紹介では、「ニッカボッカに綿のシャツ、帽子はハンチングが良いでしょう」とあってちょっとブリティッシュ風味

サイクリングファッション

団体サイクリングの項目では、「休憩中はみんなでゲームを楽しみましょう」とか「リーダーはみんなに歌唱の指導をしましょう」みたいなことが書いてある

機材の項目では、「実用車じゃなければなんでも良いです。ドロップハンドルだと長距離便利ですよ」みたいな紹介。シクロ・トウリズムってのは今でいうバイクパッキングでしょうか。今見てもかっこいい

1958年のサイクリング機材

1958年のサイクリング機材2

カジュアルなファッション、非レースライド、機材のバリエーションは多様性を認める…。誤解を恐れずに言えば、この本で書かれているライドスタイルはカルチャー系バイクのそれに非常に近い

ブルーラグ的スタイルが1950年後半のスタイルに近いのは気のせいなのか、それとも非レース的バイク趣味が生んだある種の収斂進化なのか、これは別のところでもう少し深く考えたい

ちなみに”ロードマン・シップ”という言葉が出てくる。要はスポーツマンシップの自転車版で、交通法規を守り年少者にはその見本となるような礼儀正しいふるまいを云々、みたいなやつ。本書にはレジャーの楽しみ方の紹介をしつつ、サイクリングを通じて青少年の心身の育成を育む、という啓蒙主義的側面があったのだろう

 

本書でのサイクルロードレースの取り扱い

本書ではレースに割かれているページは非常に少ない

(前略)自転車によるレースはヨーロッパのスポーツの花である。とくにトウル・ド・フランス(フランス一周自転車競走)は全フランスの小学生から老人に至るまでを興奮の「るつぼ」に巻き込むほどの国家的大レースであり、また世界最大の国際的ロード・レースである

もう本当にさらっとこれくらい。レースは遠い異国で行われている文化です、という扱い。ハイキングの本に「山岳登山の最高峰はエヴェレスト登頂です」と書いてあるような距離感というか。

この本が発行された1958年時点では、日本では自転車趣味とはポタリングをはじめとする手軽なサイクリング、と認識されていたと考えて間違いないだろう

 

その他

写真がレトロで最高なので何枚か紹介

 

まとめ

戦後しばらくの自転車趣味は非レース系であったことが確認できた。サイクリングがレースに偏るのはもう少し後の時代のようだ。他のサイクリング関連書籍にもあたり、その転換点がどの辺りなのかを引き続き調査したい

 

【参考】目次

戦後のサイクリング関連情報はネットにも情報がほとんどなく、それなりに価値があると思うので後学のために目次を残しておく

サイクリングとは

Ⅰ サイクリングの定義
Ⅱ サイクリングの歴史
Ⅲ 欧米におけるサイクリング運動

サイクリングの第一歩

Ⅰ どんな自転車がよいか
Ⅱ 自転車に乗る練習から
Ⅲ サイクリングの種類
Ⅳ正しい乗車姿勢と自転車の調整
Ⅴ走行技術

サイクリングの計画と実施

Ⅰコースの選び方
Ⅱ地図の読み方
1地形と符合
2地図を読むものの心がけ
3ロード・マップ
Ⅲ実施にあたって
Ⅳロードマン・シップ

服装と携行品

Ⅰ服装
Ⅱバッグとその内容

団体サイクリング

Ⅰ団体サイクリングの方法
Ⅱリーダーとメンバーの心得
Ⅲ休憩時の活用
Ⅳ宿泊時の注意
Ⅴ集団行進の届出

長距離ツアーとキャンピング

Ⅰ長距離ツアーの計画と装備
Ⅱサイクル・キャンピング
Ⅲ自転車の輸送と保険

事故とその防止対策

Ⅰ事故の発生とその原因
Ⅱ起こり易い自転車の故障
Ⅲ事故の防止と処置

サイクリングと健康

Ⅰサイクリングをやってはいけない場合
Ⅱ性別と年齢から見て
Ⅲサイクリングの医学
Ⅳ整備体操
Ⅴ病気、怪我の救急処置

サイクリング用車の構造と機能

Ⅰ日本のサイクリング用車
Ⅱサイクリング用車の構造と機能

サイクリング用車の構成部品と付属品

Ⅰハンドル・バーとステム
Ⅱサドル
Ⅲホイール
Ⅳ伝導装置
Ⅴブレーキ、マッドガードその他
Ⅵ付属品とその選び方

変速装置の原理と機能

Ⅰギア比の表し方
Ⅱ変速装置の種類
Ⅲ変速装置の調整と手入れ

手入れと修理

Ⅰ手入れと点検
Ⅱ修理と工具
Ⅲ自転車の格納と置場

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