【書籍】ロ-ドレ-スの走法 自転車競技入門

日本のサイクリングシーンでコンペティション(レース)偏重となったのはいつごろか、何がきっかけかを探るシリーズ、おそらく最終編

借りた本

書名 ロードレースの走法 自転車競技入門
著者 高橋長敏
出版 栄光出版社
出版年 1980年7月1日

ロードレースの走法

自分が良く本を借りる神奈川県立図書館の蔵書で、競技のロードレースについてのものはこれが最古だと思われます。この本に先立つ1976年、同じ著者、同じ出版社で「ピストの走法 自転車競技入門」という本もあったようです。これは収蔵されておらず実物は未確認

ピストの走法    自転車競技入門(高橋長敏) / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」
帯なし・1976・初版。カヴァにスレ・ヤケ・ヤブレ少・縁にヨレ。巻末に値段票痕少、三方にヤケ・シミ、本軽ヤケ、線等はありません。 / 出版社 : 栄光出版社 / ページ数 : 326p

著者の高橋長敏氏について

著者の高橋長敏氏は港区芝に所在していた自転車の輸入及び製造販売を行う山王スポーツの代表(創業者?)です。山王スポーツはレース系機材に強かったようです

Part110:1965年? 山王スポーツ|追憶のカタログ展|サイクルツーリングへのお誘い
峠越えを中心としたサイクルツーリングの記録、ちょっと懐かしい峠みちやカタログ、70年代〜80年代のヨーロッパのロードレース、プラモデル製作などについてご紹介しています。

本書の内容

これから自転車競技に進む若者へ向けて書かれたサイクルロードレース(競技)入門です。かなり充実していて、トレーニング、食事、機材、レースの展開や補給、、、と網羅的。トレーニングメニューは当然シーズンで変えるようになっていてピーキングの考え方が伺えますし、当時最先端のヨーロッパ選手のメニューも掲載があります。また、ローラー台トレーニングや筋トレなどインドアでの強化法についても書いていて非常に実践的という印象を受けました。睡眠や各種ビタミン類に関する栄養学まで記載あり、高橋氏の勉強熱心ぶりがうかがえます(もちろん今の常識とは異なる点が多く、2024年時点ではほぼ役に立たないのですが)

筋肉、筋肉は全てを解決する!

今の日本でも通用するな思ったのは、どうやったら日本でロードレースがもっとメジャーになるか、に関する話題。氏は本書内で「普段は公園として、週末はクリテリウムサーキットとして使える場所を全国に整備しよう」と提唱しています。スケートパークがたくさんできてオリンピックで通用するスケーター/BMXerが沢山登場した流れと同じだよね。日本は警察行政の関係で道路使用許可を取ることが厳しいですし、これはとても良いなと思いました

おまけ的なコンテンツとして、ケルビム初代ビルダー今野仁氏による「フレームの選び方」、チームシマノフランドリアにメカニックとしてツールドフランスに帯同した中村博司氏の「ツールドフランス報告」も非常に面白い

フレームの選び方

ツールドフランス報告

ケルビム今野氏のは「フレームの選び方」という名前なのに、素材や設計、製造についても詳細。1970年代当時、鉄素材で自転車レースフレームを作るのが極めてハイテクだったことが伺える。今だとピーターデンク氏(S社Aethosのチーフエンジニア)の文章が載ってるようなものでしょうか

シマノフランドリアは1974年にあったプロチーム。以前死ぬほど欲しかったFrandriaじゃないか!

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Flandria Competition Discってバイクが死ぬほどカッコいい件
今乗ってるバイク、Ridley Helium レトロカラーなんだけど*1。これ、デザインがすごい好きなんだよね。淡い赤のボディカラーに要所を黒で引き締めたクラシックな胴抜きデザイン。フォークの肩にあしらったクラウン風の塗装もぐっとくる。とは...

書籍全体から、世界選手権で優勝する選手を輩出させよう、という高橋氏の熱いパッションを感じます。山王スポーツ経営の傍ら、日本のロードレーサーが世界へ羽ばたく日を夢見てこういった書籍を執筆されていたのでしょうか

面白いのは世界選手権で優勝を!であってツールドフランスでマイヨジョーヌを!じゃないんですよね。グランツール制覇は日本人にはまだまだ先、と考えていたのか、それとも当時は世界選手権優勝にマイヨジョーヌより価値があったのか?

 

本書の位置づけとまとめ

力作です。インターネットが無い時代、書籍という形でしか情報は伝えにくかったですし、氏が果たした功績は大きいのではないでしょうか

反面、本書が日本のコンペティション偏重にどの程度影響を及ぼしたか、という点についていえば、実はそこまででもないのかな、という気がします。前回のエントリーに上げた通り、日本でレースが人気となるのはバブルマネーによって海外のレース系コンテンツやタレントが日本に紹介される1980年代中盤ですが、高橋氏の活動時期はそれよりやや早いです。

なんとなくですがロジカルで網羅的な氏の文章から感じる性格と、瞬間をエキサイティングに切り取る映像メディアのノリとは水と油、この2つは一線を画していたのではないかなという気がします。ファン層の開拓はTVメディアに任せ、自身は後進の競技力向上に尽力されたのかな?ちょっと想像ですが

 

図書館蔵書でめぼしいところはだいたい借りたし、自分の知りたかったこともある程度知ることができました。日本のサイクリングシーンを辿る旅はこれでいったん区切りたいと思います

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