緊急事態宣言と自転車マンガ

緊急事態宣言で外出が減ってるので、自転車漫画を読みなおしたり、新しい自転車漫画を開拓したり。
色々あるけど個人的に好きな奴を。

「茄子」(黒田硫黄)☆☆☆☆☆

アニメが圧倒的に有名だが、実は黒田硫黄の手による原作漫画も素晴らしい。というかこのエントリーの8割はこの作品を推したいがために書いたようなものだ。
漫画は実は自転車漫画ではなく、野菜の茄子を小道具に主人公が毎回変わるオムニバス。アニメになった「アンダルシアの夏」はその中の一話。
各話に通底するテーマは”どこまで行ってもそこから離れられない諦観”みたいなものだと思う。「アンダルシアの夏」なら、寂れたスペインの片田舎を捨て、ロードレーサーとして世界中を股にかけるはずが、いまだしがないアシスト止まりの主人公、ペペ・ベネンヘリ。晩夏のブエルタ・ア・エスパーニャを、何の因果か勝ちの薄い一人逃を行うペペ。スペインの茫漠たる風景が亡霊のように主人公に付いて回ってくる…。この、逃げ出したいのに、その人を縛る何か。その曖昧な「何か」を見事にストーリーに結実させている。*1
他にも、世を捨て田舎暮らしをする元大学教授、富士山の気象観測所に閉じ込められた観測隊員、卒業しても実家で何もせずにぶらぶらする女の子、どれも何かに囚われている。かといって暗いストーリーというわけでもなく、クルクルと「何か」の周りを回りながら少しづつ他の場所へ移動していったり、未来を感じさせるオチがあったりと読後感はさらっとしている。筆ペンで書いたような太いタッチ。日常的なのに妙にひっかかる台詞回し。コマのリズム。黒田節さく裂。
*2
あと黒田硫黄は「セクシーボイスアンドロボ」も良い。え?松山ケンイチ主役でドラマ化?ははは、またまた御冗談をwww
*3

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「弱虫ペダル」(渡辺航)☆☆☆

いやこれは読み返してないんだけどw
自転車漫画ネタで避けて通れないので。
ストーリーが進むにつれてテニプリ化というかキャプテン翼化というか、ちょっとやってる人間からすると突っ込みが多すぎて悶えてしまう。真面目に乗ってる人間ほどマンガのノリと現実の間でもにょる。自分は8巻あたりで脱落してしまった。いやほらレース中にそんな会話する余裕なんてないんですよやっぱり。汗と涎と鼻水すごいし。
が、自転車ブームを起こした功績を考えれば、比肩するものなき大作。
渡辺先生はほんとにバイクレースが好きで、毎年毎年SDA王滝に参戦してらっしゃる。ちなみにみんな慣れ切ってて、気づいても誰も話しかけたりしないところが面白い。*4渡辺先生の大ファンは王滝100㎞に参加すべし。2時に起きて先頭に近いところに並ぶだけだぞ。なんなら抜きつ抜かれつ7時間一緒に走れる。公式ツーリングだ(謎)*5
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「シャカリキ!」(曽田正人) ☆☆☆☆☆

「シャカリキ!」は競輪じゃない自転車ロードレースをはじめに日本に紹介したのではないだろうか。エースとアシスト、ヒルクライマーとスプリンター、ヨーロッパの美しい風景といつまでも続くグランツール。こういうものを日本で広く知らしめた大きな存在。自転車レース漫画の正統的フォーマットを作ったという点もポイント高い。現に、主人公が熱血ヒルクライマーだったり、ライバルがスカした金持ちオールラウンダーだったりといったキャラ付けは、きっちり弱虫ペダルへ受け継がれている。
主人公のテルが骨折してリハビリに励むシーンがあるのだが、ここ読むだけで号泣してしまう。「スラムダンク」8巻*6より泣ける。自転車で怪我をした人はみんなリハビリの間読むべき。なんならすべての整形外科はリハビリセンターに読めるように置いておくべし。
曽田正人は熱量の多い漫画を量産しており、「め組の大吾」「昴」も傑作。ら、ラップ漫画?そんなのありましたっけ?w
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「のりりん」(鬼頭莫宏)☆☆☆☆

アラサー男性が自転車屋さんに勧められてロードバイクに乗り出して、嫌々言いながらもロードバイクのスピード感とかいいなぁとなっていく感じがリアル。
この漫画のキモは「30越えたら男は自転車」のセリフ。これが全て。若いころは身体拡張感覚が欲しくて外部出力の乗り物(車やバイク)に乗ることにハマるんだけど、大人になると自己の身体感覚の延長線上にあるスポーツ(自転車やサーフィン)に移行していきがちなんだよね。この辺を上手く言語化したなぁと。あとマニアックな機材ネタが凄い。作者ほんと好きなんだろうな。なんとなく最後が尻切れトンボっぽい感じなので、打ち切りだった?
惜しむらくは画にスピード感が全くないところなんだが、レース漫画ではないからそれはそれで良いのかもしれない。
鬼頭莫宏のくせに人が死なない貴重な漫画。というか「のりりん」で作者を知った人は他のを読まない方が良い。「なるたる」とかほんともう(語彙力)
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やっぱり打ち切りだった模様。2話目はよ
kuragebunch.com

「ろんぐらいだぁす」(三宅大志)☆☆☆

”おじさんが楽しむ趣味を女子高生がやる漫画はヒットする”法則というのがあって。これは完全にそれ。「ゆるキャン△」「放課後堤防日誌」もそれだよね。おじさんがキャッキャウフフしてる漫画なんて見目が悪いので、女子高生に仮託するわけです。なんつーかすごくあざといんだけど、きっちりツボを突いてて面白がっちゃう自分が憎いw
トレーニングやりすぎると燃え尽きてしまうことってあるけど、こういうのを箸休めに読むと、「おっ、トレーニングは置いといて週末オギノパンライドでもしようかな」といい意味で気分転換になる。

 

「サイクル。」(レンゴク)☆☆☆☆

元々はweb漫画。自転車あるあるが多くてほっこり。女子は出てくるけど、「ろんぐらいだぁす」とは対照的に萌えみたいなものを強く押し付けてこないので読みやすい*7。自分がスポーツサイクルに乗り出したころ、ロードに乗ってる女性なんて浜に打ち上げられるリュウグウノツカイ並にレアだった。当然Raphaみたいなおしゃれウェアなんてのもなかったし。こうやっていい意味で普通の自転車漫画が受け入れられるのはマーケットが成熟している証拠なんだと思う。
絵的にもすごく良くて。他の漫画だと、バイクに乗るシーンでバイクと人のバランスが崩れる(バイクが大きすぎたり逆に小さすぎたり)ことが良くあるのだけれど、「サイクル。」はパーフェクト。ただ、サドルの高さやライダーの頭身が日本人離れしすぎてるけどw
https://i0.wp.com/www.cyclorider.com/wp-content/uploads/2018/10/cycle12.png?w=1256&ssl=1

 

「ツール・ド・アンダーワールド」(なかざき冬 楠風夏)☆☆☆

同じくweb漫画の「ツール・ド・アンダーワールド」。深夜の東京を舞台に行われる闇レースに巻き込まれてしまった主人公は…みたいな。自転車×バトルロワイアルもの。エースとアシスト、みたいな自転車レース漫画のフォーマットは守りつつも、買収や脅迫めいたことがあるところが荒唐無稽で男塾っぽさがある。ボリュームが物足りないので30P前後の読み切りにしてジャンプラあたりでやってくれないかな。
作者が意図しているところではないのだろうけど、「参加者で金を出し合って賞金総取り」という設定が、日本の自転車コンペティションシーンを皮肉っている格好で考えさせられる。俺たちもそれをやればウハウハだな(賭博開帳図利罪で逮捕ですw)
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*8
sp.comics.mecha.cc

 

東京の緊急事態宣言もあとちょっと!あともう少しステイホーム!
いや、正確にはワクチンが終わるまでなのかもしれんけど、それはともかくステイホーム!

*1:アニメでは、丘の上の牛の看板「オズボーンの雄牛」が、主人公に付きまとうスペインの影を暗示している

*2:原作とアニメが同じくらい良い出来というと、監督と原作が同一人物の「ナウシカ」「AKIRA」は除くとして、この「茄子」と「攻殻機動隊」くらいか。

*3:黒田硫黄ファンは原作レイプされたドラマ版セクシーボイスアンドロボをなかったことにしたいわけですw

*4:自分は初回参加時にテンションが上がってサイン貰おうとしたのだけどw

*5:マジでやると迷惑だからやめましょう

*6:「安西先生、バスケがしたいです」

*7:中盤以降、谷間系YouTuberみたいなサービスシーンが増えてくる。個人的にはそういうのが無い普通な方が好き

*8:知り合いが関わってるのでステマですw

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