グラベル/オールロードの広がりとサイクリングの新しい形

本エントリーの主旨は、グラベル系バイクが増え、それにともなって新しいサイクリングの形が生まれつつあるのではないかという内容です。

 

超ざっくり戦後サイクリング概観

超ざっくりですが戦後のサイクルスポーツ史をおさらいするとこんな感じ

戦後まもない頃 集団サイクリング
JCAの発足
1960年代 ツーリング(ランドナー)概念の輸入
1970年代 日本の自転車産業隆盛
サイクリングブーム
1980年代後半 バブルマネーの流入
海外ロードレース誘致、放映
1990年代 ツール・ド・フランス放映
MTBブーム
2000年代 ピストブーム
弱虫ペダル連載開始
ロードバイクブーム
2010年代後半 コロナ禍
グラベル/オールロードの広がり

グラデーションやバックラッシュはあるものの、1960年代~1970年代はツーリングの時代、1980年代以降はレースの時代と言えます

 

いまはロード/コンペティションの時代

前項の通り、1980年代以降の日本では基本ロードバイクがスポーツサイクルの主流です。弱虫ペダルの影響は非常に大きいでしょう。加えて、高い舗装率や日本人の体形が比較的細身でヒルクライムが好まれること、なんかも背景にあります

 

グラベル/オールロードの広がり

そんな中、2010年代後半以降、グラベル/オールロード系バイクがじわじわと増えつつあります

その背景には、テクノロジーの進化でタイヤが太くなっていることや、インフレでコンペティションロード価格が高騰していること、MTBの進化によるオフロードニッチの誕生、などがあげられます。

MTBの進化について補足しておくと、昨今のMTBは走破性が劇的に上がり、里山や林道を走った程度ではライダーはミリも楽しくなれません。NO脳汁。MTBの遊び場はジャンプやバーム、ドロップオフを備えたMTBパークやゲレンデに集約されつつあります。結果として、今までMTBのフィールドだった林道などの“ごく普通の未舗装路を走るポジション”が空位になっているのです。自然は空白を嫌いますのでここを埋めるべくグラベル/オールロード系バイクの存在が大きくなっています

当然、2010年代から認知を上げてきたグラベルカルチャーの存在も無視できません。とりわけ日本ではバイクロアの存在が大きいでしょう

 

ツーリングの復権か?

こうした結果、スポーツサイクルにデビューする多くの人がグラベル/オールロード系バイクをファーストチョイスする状況となっています。若者のロードバイク離れです。これはもしかすると“ツーリングブーム”のリバイバルを呼び起こすかもしれません

  • グラベル/オールロード系のバイクで
  • レクリエーション志向で
  • ややアドベンチャー色のあるサイクルスポーツ

が流行るのでは?ということです

 

『おっランドナー再びか?』と思って部屋の奥のランドナーを引っ張り出そうとしたあなた、それは早計です。おやめになった方が良いでしょう

2020年代的サイクリングの形は懐古主義とは距離を置くものになります

 

2020年代的な新しい”サイクリング”の特徴

いま現れつつある新しいサイクリングの形は、往年のランドナーやそれらを使ったツーリングとは異なるものです。なぜならインフラとテクノロジーが全く変わっているから。

ランドナー黄金期の1970年代と比較すると

インフラ

  • 自動販売機やコンビニ網の整備
  • 電車輪行が容易に(1999年から無料化)
  • 自動車の運転支援技術の刷新
  • 情報通信網が距離と時間を超越して情報をシェア

要は以前より手ぶらライドがしやすくなりました。また、発着点が家ではなくなりつつあります。ツーリングガイドなどや口伝でのルート共有ではなくなり、ルート情報はSNSで広く共有されています。今のサイクリングはDiscordと7-11とStravaとACCによって成立しているのです

テクノロジー

  • GPXデータを元にしたナビゲーション
  • パワートレーニング/インドアトレーニングによるFTPの大幅な向上 
  • 軽量カーボン素材、ワイドなギア比、TLRシステム、油圧ブレーキ 

機材はタフだし道迷いの心配は無いですし以前より気軽にオフロードに突っ込めます。もはや未舗装路を走ることはマッチョな行為ではありません。また地図読みの技術など、今までツーリング系で要求されていた特殊技能のかなりの部分をテクノロジーでカバーできるようになります。ULの進展で登山が青年/壮年男性のものではなくなったことと相似ですね

 

2020年代的サイクリングの形は

まとめると、2020年代以降に現れるサイクルスポーツの形は

  1. 発着点の制限は無くカジュアルに始められる
  2. ルートセットやプランニングに掛ける時間が少なくなる
  3. 舗装・未舗装の区別なく走ることができる

ことを特徴とします。

言い換えれば

  1. よりファストで 
  2. よりアジャイルで 
  3. よりオールマイティな 

サイクリング概念と言えます。

らせんを上から見ると同じところをグルグル回ってるように見えますが、3Dの視点では全く別の座標を通っているように、現代的サイクルスポーツはランドナーとは別のところを通っているのです

本エントリーの内容からは外れますが、現代的なサイクリングスタイルの特徴に”旅のシミュラークル性”があると思います。上手く言語化できないのでいつかエントリーを上げたい

 

新しいサイクリングの世界へ

最近グラベルバイクを買ったあなた、ようこそ現代的サイクリングスタイルの世界へ。グラベルという名前ですが未舗装路を走る必要はありません。ぜひ気ままにあちらこちらを探検してみてください。路地裏に、砂利道の果てに、面白いものが必ず見つかります。レース?そんなものはストイックなおじさんたちに任せておけばよろしいんじゃないですかね

往年のランドナーが部屋に飾ってあるあなた、というわけで現代的サイクリングスタイルはこんな感じです。もちろんランドナーやパスハンターでも似たようなことができないわけでもないですが、せっかくなら今のテクノロジーの恩恵を受けましょう。美しいラグのフレームもHEのリム/タイヤもキャンバスの鞄もダブルレバーもインテリアとしてどうぞ大事にしてください。モダンな世界はモダンなバイクで、ひとつよろしくお願いいたします

ローディーのあなた、レースに疲れたらちょっと横道にそれてみませんか?ヤビツ峠の近くにグラベルルートがあるのを知っていますか?グラベルバイクでしか行けないSNS激映えの見晴らしスポットがあるのは?丘の上にある大きなクスノキと祀られている小さな祠のことは?競うことだけが自転車の楽しみではありません。サイコンの画面をパワーからナビに変えて、新しい世界を覗きにきてください

マウンテンバイカーのあなた、毎回長野まで遠征して走るのしんどいときありますよね?きわめてプリミティブな、サスペンションの無い自転車で裏山を走りませんか?体中シェイクされて脳汁出まくりです。だって結局スリルを求めてるわけじゃないですか。ハイテク機材じゃなくても良くないですか?MTBで培ったスキルはグラベルでも活用できます。あなたくらい走れたらグラベル界隈ではおおいにドヤれます

お待ちしております

というわけでファストでアジャイルでオールマイティなサイクリングスタイルが来るかも、というエントリーでした

 

新しいワードが必要

この新しい”サイクリング”を示す新しいワードが必要なんじゃないかな

“ツーリング”、”ポタリング”、”パスハント”などは既に手垢が付いてまし、”グラベルライド”や”アドベンチャーライド”だと未舗装感が強すぎるます。ヤン・ハイネさんが提唱した”オールロード”は悪くないですが認知度はなぜかいまひとつです

ファストでアジャイルでオールマイティなスタイルにぴったりな名称、これを考えるのは次世代サイクリストの仕事かなと思います。かっこいい名前を付けてくれるのを楽しみにしています

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